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秘めたる森(2)

前にアップしたやつのお子さま向け版。

 おじいさんがきみたちくらいの子供だったころのおはなしです。

 そのころにはもう、妖精はいなくなったといわれていました。

 なぜって、妖精は、人間といっしょに生きることはできないからです。だから人間がふえるにつれて、妖精は住むところがなくなっちゃったのです。

 でも、おじいさんは妖精を知っていました。

 フェンツェンの森のおくで、おじいさんは妖精に出会ったのです。

 おじいさんは……でも、このときのおじいさんはまだきみたちくらいの子供ですから、ちょっとおかしいですね……その森に、テリルを採りにはいっていました。

 フェンツェンは今でも大きな森ですが、そのころはもっと大きくて、暗くてとてもこわいところだったのです。だから、ほんとうは森に入るのはいやだったのですけれど。でも、ほら、テリルは大きな森のおくでしか取れませんからね。

 その森のなかで、おじいさんはまいごになっちゃったのです。

 いえ、別にはずかしいことじゃないんですよ。

 フェンツェンの深い森のおくでは、ずいぶん山あるきに慣れている大人でも、ちょっと道をまちがえただけで、どっちにいったらいいかわからなくなっちゃうんですから。

 おじいさんもやっぱり、ちょっとうっかりして、道をまちがえたのです。

 おじいさんは森のなかで、小さな光を見たような気がしたのです。なにかな、と思って、そっちに歩いてみたら……

 もう、もといたところがわからなくなってしまったのでした。

 おじいさんはどきっとしました。

 ええ、フェンツェンは大人でもまいごになります。

 フェンツェンの森にはいって、かえってこなかった大人は、たくさんいるのです。

 森のなかにはドラゴニアンがいて、いうことをきかない子供をさらっていくよ。

 怒られたときにいつも言われるそのことばが、急にあたまのなかでぐるぐるとまわっていました。

 心ぼそくて泣いちゃいそうでした。

 でも、泣くとおかあさん(ひいおばあさんですね)に怒られるから,ぐっとがまんして、おじいさんは道をさがしましたが……

 どうしても、元の道にはもどれませんでした。

 あたりをうろうろと探していると、ますます自分のいるところがわからなくなります。いけない、と思ったときにはもう、どっちが森のおくで、どっちが村のほうこうなのかも、わからなくなっていたのです。

 やっぱりもう泣いちゃおうかな、おじいさんはそう思いました。

 いちどだけ、あたりを見回しました。

 おじいさんはどきっとしました。

 幹のあいだに、何か光るものを見たような気がしたのです。

 きっと、おじいさんが道をまちがえることになったあの光なのかな、と思いましたけれど。

 でもひょっとしたら、けものの目かもしれません。

 ひょっとしたら、ドラゴニアンかもしれない……

 おじいさんは、ぞっ、としました。

 でもひょっとしたら、森に狩りをしにきた人かも……人だったら、たすけてくれるかも。

 おじいさんはどきどきしながら、そちらをそぉっとのぞいてみました。

 そのちっちゃな光は、ふるふるっとゆれていました。

 おじいさんはびっくりしました。

 そんなものを見たのははじめてでした。

 それは、金色の翅でした。

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 わぁ……!

 そのかたちは、トンボの翅に少しにていました。

 でも、筋のところが金色にきらきらと輝いて、その光がすごくきゃしゃな透明な翅を照らし、複雑な光をつくっていました。まるで、信じられないほど薄くスライスした宝石のようでした。

 トンボの翅よりもずっときれいでした。

 翅をうっとりとみつめていたおじいさんは、思い出したようにその体をみました。

 そしてこんどこそ、自分が困っているということまで忘れてしまいました。

 そのからだも少しひかっていたから、ちょっとかたちがわかりにくかったのですが、それでも目をこらしてみると、そのやわらかな線が見てとれました。

 そのからだは、ちっちゃな女の子のものでした。

 はだかの体はとてもきゃしゃで、思わず抱きしめてあげたくなるくらい、かわいらしかったのです。

 でもそのからだは、翅の大きさににあってとっても小さくて……そうですね、翅もからだも、ちょうどメガネウラくらいの大きさでした。でも女の子ですから、トンボとくらべるのはちょっとかわいそうですね。

 おじいさんは、その子がどうしてこんなところにいるのかわかりませんでした。

 なにか魔法のいきものだとはわかったのですが、妖精だってことには、すぐには気づかなかったみたいです。

 妖精はもうおはなしのなかにしかいないと言われていましたし、だいいち女の子はあんまりきれいでしたから、おじいさんはなんにも考えられなくなっちゃったのでした。

 おじいさんは自分が困っていることもわすれて、その女の子にみとれていました。あんまりきれいで、おじいさんはテリルをつんだかごをおっことしちゃったくらいでした。

 ぱさっ、という小さな音をたてました。

 その音で、女の子はとてもびっくりしたみたいでした。

 女の子のからだの光が、すぅっと暗くなりました。

 おじいさんが、あれっ、と思って目をこすってみましたが、そのときにはもう、女の子はいませんでした。

 いつもとおなじ、暗い森があるだけでした。

 何がおこったのか、わかりませんでした。

 頭がぐるぐるとしてきたので、おじいさんはそこに座って、いちどゆっくりと考えてみることにしました。

 でもやっぱり、あまりよくわかりませんでした。

 ふしぎな光につつまれた、きれいな女の子のこと。

 たぶん、おじいさんはその子をおどろかせちゃったこと。女の子はびっくりして、そしてどこかにいっちゃったってこと。

 だから、おじいさんはまたひとりぼっちになっちゃったってこと。

 そう、おじいさんはまた思い出してしまいました。

 自分がまいごだってことを。

 おじいさんはまた心ぼそくなってきちゃって、考えれば考えるほど悲しくなってきて、とうとうしくしく泣きだしちゃったのです。

 泣きながら、ちょっとだけおかあさんの怒った顔が頭にうかびましたけれど、怒られることを考えると、もっと悲しくなっちゃいますものねぇ。

 おじいさんは、おいおいと声をあげて泣いちゃったのです。

 そうしたら、あたりがほんの少し明るくなりました。

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 おじいさんが顔をあげてみると、めのまえにあの女の子がいました。

 女の子はやさしい羽音をたてながら、ちょっと首をかしげておじいさんの顔をのぞきこんでいました。

 おじいさんが頭をあげると、女の子はびくっとしましたけれど、もういちどおじいさんの顔をみつめて、おずおずとおじいさんに笑いかけてくれました。

 その表情はとってもはかないものだったのですけれど、でも、おもわずわらいかえせずにはいられないくらい、かわいらしかったのです。

 それで、おじいさんの悲しいきもちも少しおさまりました。

 しばらくそうして、ふたりは顔をあわせていました。

 おじいさんはそのときになって、やっと気がつきました。

 女の子GA、もういなくなっちゃったといわれている妖精だということに。

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 いなくなっちゃったっていわれていたくらいですから、妖精はやっぱり、すごくめずらしいいきものなのです。

 でも不思議と、すごいことだという気持ちはしませんでした。あわく光りながらさわさわとゆれる髪につつまれて、女の子の表情はとてもやさしくて、なんとなく、ずっと昔からの友達のように安心できたのです。

 女の子をみつめ返しながら、おじいさんもやさしく笑いかえしていました。

「れるく……いすと どぅ?」

「え……」

「いすと どぅ?」

 女の子は優しく話しかけてくれましたけれど、おじいさんにはそのことばはわかりませんでした。

 でも、おじいさんが手をのばすと、女の子はその指をつかんでくれました。

 そしてその指を、女の子はゆっくりとひっぱってくれたのです。

「う゛ぇあ……?」

「ええと……」

 女の子はちょっと困ったように、おじいさんをみつめました。おじいさんもてれ笑いのような表情をして、女の子を見つめかえしました。

 ふたりはみつめあって、くすくすと笑いました。

「迷子になっちゃったんだ……道、わかるかなぁ」

 女の子は首をかしげてしばらく考えていましたが、それから何かに気がついたように、ぱっと表情があかるくなりました。

 女の子は、つかんでいたおじいさんの指をひっぱりだしたのです。

 おじいさんはあわててたちあがり、女の子が示すほうに歩いていきます。

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 おじいさんをひっぱりながら、女の子は自分の胸を示していました。そして、かわいい声でおじいさんに語りかけてくれるのです。

「うぃぁー、れるくそんふぇんつぇん・ふろる・べりちぇり」

「レ……レルクソンフェンツェン……?」

 おじいさんは、女の子のことばの意味がわかりませんでした。だから困ったように、女の子のいいかたをまねすることしかできませんでした。

 女の子は首をふって、おじいさんの指先を、かわいらしいちいさな胸にあてます。

 やわらかいからだの感触に、おじいさんはちょっとどきどきしました。なにしろ、とてもかわいい女の子ですからね。

「ふろる・べりちぇり……べりちぇり」

「……ベリチェリ?」

 女の子はにっこりと笑って、ふわっと飛びあがりました。そして、おじいさんの首筋にだきつきました。

 そう、妖精の女の子の名前は、フロルベリチェリというのです。

「……ぼくは、テトレフ」

「いひんてとれふ?」

「あ……テトレフ」

「てとれふ!」

 名前をしったおじいさんと妖精はみつめあって、もういちど、にっこりと笑いました。

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 おじいさんはそうして、妖精の助けでおうちに帰ることができました。

 でも、おじいさんはおうちに帰っても、森のなかで出会った妖精のことが気になってしかたがありませんでした。

 どうしたら、またあの子にあえるかな。おじいさんはそんなふうに考えていました。

 それでおじいさんたら、次の日のテリル採りのとき、わざと道をまちがってみるのです。こんどは帰れるように、道を忘れないようにはしていましたけれどね。

 そうして、前の日に妖精にであったあたりを、うろうろと探していました。

 すぐには、妖精はあらわれませんでした。

 やっぱり、もう会えないのかなぁと思ったとき、光がくるりっとおじいさんの頭をまわりました。

 ……わぁ!

 おじいさんは、にっこりと妖精に笑いかけました。

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 そうして森に入るたび、おじいさんは妖精に会いにいっていました。

 いけないことだとは、分かっていたのですが……だって、妖精は人間といっしょにはくらせないのだから……それでも、妖精の女の子の顔がみたくて、おじいさんはたまらなかったのです。

 それに、何もおこりませんでした。

 さいしょのころ、おじいさんはどきどきとしていました。ひょっとして、人間にふれることが毒なんじゃないだろうかと思って、とても心配だったのです。

 でも、妖精はなんともありませんでした。

 もちろん、おじいさんは妖精のことを誰にも話しませんでした。おじいさんが森にはいるたびに、いつも、妖精はそのやさしい笑いがおを見せてくれていたのです。

 それは、すてきな時間でした。

 妖精は人間語は話すことができませんでしたが、こだいクリル語のことばを少しだけしっていました。

 おじいさんはクリル語やテルヒ語をいっしょうけんめい勉強しました(今はすっかりすたれてしまっていますが、こだいクリル語はとってもむずかしいのです)。そして、ますます妖精と仲よくなっていきました。

「あぅる、ふぉんつぇん……」

「でぁ、いすと、どぅ?」

 そんなふうにして、おじいさんたちは笑いあうのです。

 きみたちも、お勉強しなくちゃだめですよ。

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 おじいさんの採るテリルは、とてもよいものでした。だっておじいさんは、妖精に森のなかをおしえてもらっていたのですから。

 もちろん、勉強もわりとよくできました。ほら、おいしゃさんのことばって、テルヒ語をもとにしているのですよ。だから、16さいになったころには、おじいさんは立派なおいしゃになる用意ができていました。

 それで、およめさんをもらうように言われたのです。

 およめさんになる女のひとは、きれいな人でした。おっとりとして控えめな、すてきな人だったのです。

 おじいさんも、とってもいい人だな、と思いました。でもおじいさんは、何となくけっこんがいやでした。

 およめさんをきらいじゃないのに、どうしてけっこんがいやなんだろう。

 おじいさんは、なんどもなんども考えていました。

 そして、おじいさんは気がつきました。

 おじいさんはずっと、あの森でであった妖精のことが好きだったってことを。

 でも、そんなことは誰にもいえません。だって、妖精とはけっこんできないからです。

 おじいさんは、ずっと困っていました。

 およめさんになるはずの女のひとはほんとうによい人でしたから、理由もなくことわるのはすごく悪いことのような気がしたのです。

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「なにを、しんぱいしているの?」

「え……」

 森のなかですわりこんでいたおじいさんは、はっとしました。そのころには、おじいさんは妖精のことばがほとんどわかるようになっていたのです。

 妖精は心配そうに、おじいさんの顔をのぞきこんでいました。

 おじいさんは、妖精に心のなかをのぞかれたように、どきどきとしました。

 むりに笑ってみせようとすると、妖精はますます心配そうな表情をして、おじいさんの表情をのぞきこみます。

 おじいさんは困って、くちごもって……

 そして……

「ずっと、すきだったんだ」

「……?」

 妖精はちょっとふしぎそうな表情で、おじいさんをみつめていました。

「……ぼくは、ベリチェリが大好きなんだ」

「うん。あたしも、てとれふがすき」

「……そういうのじゃないんだ」

 おじいさんは、強く首をふりました。妖精はちょっとびっくりしていました。

 おじいさんは後悔しました。けれど、もう、言っちゃうしかありませんでした。

「きみが人間だったらよかった……」

 妖精は、そのきれいなまゆをひそめました。

 おじいさんは妖精をみつめ、その腕をとりました。

「ぼくは、きみをおよめさんにしたいんだ」

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 妖精はとてもびっくりしていました。

 それから、ゆっくりとおじいさんの手におりました。

 おじいさんはあわてて、妖精を両手でつつみこんであげました。

 妖精はそこで、手をおじいさんのてのひらについて、そして、にっこりとほほえんでくれました。

 おじいさんがずっと見てきた、妖精の表情のなかでも、とくべつきれいで、かわいらしかったのです。

 妖精はなにもいわなかったけれど、その笑いが、妖精の気持ちを教えてくれていました。

 ちょっとはずかしくて、でもすごくうれしくて……どきどきしてる。そんな妖精の気持ちが、てにとるようにわかったのです。

 でも……その笑いには悲しさがまじっていました。

 こまかくふるえていた妖精の翅は、ゆっくりと力をなくし、たれさがってていきました。

 ねむくなってきたときのように、妖精はゆっくり、ゆっくりと前にかがんでいって、そしてその腕の力がぬけて、いつもの光がだんだんと暗くなっていき……

 そして、妖精はおじいさんの手のなかにぱったりと倒れたのです。

 びっくりしました。

 妖精は体をまるめて、苦しそうにしていたのです。

 妖精のせなかを指でさすりながら、おじいさんはいいつたえを思いだしていました。

 妖精は人といっしょには生きていけない。

 生きていけない。

 生きていけない……

 もう一度そらをとびたがっているように、たすけてって手をのばすように、妖精の翅がもういちどそらをむき、細かくふるえます。

 おじいさんは泣きそうになりながら、せめて妖精の背中をさすってあげていました。

 その翅は、ぽろりと取れておちました。

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「それで、どうなったの。妖精さん、死んじゃったの?」

 泣きそうな顔をして、ぼうやが聞きます。

 おじいさんはゆっくりと安楽椅子をゆらしました。

 そして、とおくをみつめるような目をしていました。

「言いつたえは正しかったよ……」

 ぼうやは目になみだをいっぱいためて、おじいさんのあしにかじりつきます。

 だいじょうぶだよ、というように、おじいさんはぼうやの頭をなでてあげます。ぼうやは、ぐじゅっとすすりあげました。

 おじいさんは、ちょっとこまったなぁ、というかおをしました。

 そしてやさしくわらい、ぼうやをだきしめてあげるのです。

「だいじょうぶ、妖精は死ななかったよ。でも、妖精は妖精でなくなってしまった……ぼうやのママがとってもきれいなのは、おばあさんが昔、妖精だったからなんだよ」

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